多くの人は、戦略づくりというと「どのインジケーターを使うか」「パラメータをいくつにするか」ばかりを考えます。正直に言えば、私自身もその一人でした。
しかし、本当に安定したポートフォリオを組むには、それだけでは足りません。似たような発想の戦略ばかりを並べても、値動きが似てしまい、いざというときに全部そろって沈むからです。必要なのは、まったく異なる視点から作った戦略を組み合わせることです。
その強力な一つが、今回紹介する「季節性」を使った戦略です。インジケーターを一切使わず、「時間」そのものを根拠にする。それでいて、しっかりと検証に耐える戦略を、ゼロから組み立てていきます。
そもそも「季節性」とは何か
季節性という言葉は、もともと先物取引の世界で使われてきました。
たとえば原油やコーン(とうもろこし)といった商品先物では、季節によって需要や供給が変わります。原油なら寒い時期に暖房需要が高まり、コーンなら収穫の時期に供給が増える。こうした「毎年繰り返される季節的な偏り」を統計的に捉えて取引するのが、季節性戦略です。
すべての銘柄にあるわけではありませんが、一部の銘柄には、こうした周期的な偏りが確かに存在します。
今回私がやったのは、この「季節性」の考え方を、もっと短い時間軸に落とし込むことです。私は短めのスイングトレード(数時間から1週間程度の保有)を好むので、「何月が上がりやすいか」ではなく、「何曜日の何時が上がりやすいか」という、1時間単位の偏りをデータで分析しました。
つまり、季節性を「月単位」ではなく「曜日・時間帯単位」で捉える、というのが今回のテーマです。
なぜ、この戦略がポートフォリオに効くのか
当サイトでは繰り返し、「低相関の戦略を組み合わせることが、安定したポートフォリオの鍵だ」とお伝えしてきました(【Step.6】戦略を多角化するポートフォリオ:リスクを分散し、安定性を最大化する_参照)。
ここで言う「低相関」とは、単に値動きのグラフが似ていないという意味ではありません。エントリーや決済のタイミングがずれ、利益や損失が出る場面がそろっていない、ということです。収益の出る場面が異なる戦略を組み合わせれば、一つが負けている局面でも、別の戦略が支えてくれます。
ところが、この「収益のタイミングをずらす」のが、実は難しい。多くの人は、同じような発想(インジケーターと売買ルール)で戦略を作るからです。しかも、S&P500・ナスダック・ニューヨークダウのように連動しやすい銘柄で似たロジックを組めば、当然エントリーも決済もそろってしまい、相関は高くなります。
そこで季節性が生きてきます。RSI戦略が「価格が行き過ぎたら逆に張る」論理で動くのに対し、季節性戦略は「この曜日のこの時間は上がりやすいから買う」という、まったく別の論理で動きます。仕掛ける根拠も、仕掛けるタイミングも違う。だからこそ、既存の戦略と収益の場面がずれ、低相関なピースになるのです。これが、季節性戦略の大きな価値です。
季節性を測る正しい方法:なぜ「率」で見るのか
実際にデータを集計する前に、一つだけ大切な準備があります。値動きを「金額」で測るか、「率」で測るか、という問題です。
結論は、率で測るべきです。これには理由があります。
分かりやすい例で説明します。ある銘柄が、前日比で10%下落したとします。その翌日、今度は10%上昇しました。10%下がって10%上がったのだから、元の値段に戻りそうな気がします。ところが、実際には戻りません。たとえば1,000円が10%下がると900円、その900円が10%上がっても990円で、元の1,000円には届かないのです。
このように、単純な前日比(%)の計算には、下落と上昇を同じ割合で足し引きしても元に戻らない、というズレがあります。このズレを解消するのが「対数リターン」という計算方法です。対数リターンを使えば、こうした歪みなく、値動きを公平に足し合わせて集計できます。
S&P500は10年前が1,500ドル前後、今は7,000ドル超と、価格水準そのものが大きく変わっています。15年分を公平に平均するには、金額ではなく、この対数リターン(率)で見ることが欠かせません。
もう一つの注意点として、市場が閉じている夜間や週末をまたぐ値動きは集計から除外しています。「金曜終値から月曜始値」は1時間の動きではなく週末2日分の変化であり、混ぜると集計が歪むためです。
実データで見る:曜日×時間帯のヒートマップ
準備が整ったので、実際のデータを見ましょう。Dukascopyから取得したS&P500の1時間足(2011〜2026年、日本時間)で、曜日×時間帯ごとに対数リターンの平均を集計し、ヒートマップにしました。

緑が濃いほど「その曜日のその時間帯は上がりやすかった」、赤が濃いほど「下がりやすかった」ことを示します。
一目で、色に明確な濃淡があると分かります。もし時間帯による偏りがまったく存在しないなら、全体がのっぺりした一色になるはずです。しかし実際には、はっきりと緑の場所と赤の場所がある。これが「時間帯によって値動きに偏りがある」ことの証拠です。
一週間の値動きを一本の線で見る
ヒートマップは「どの時間帯が強いか」を面で捉えるのに向いていますが、「一週間を通して、どこで買ってどこで売れば利益が乗るのか」を考えるときは、折れ線グラフの方が直感的です。
次の図は、月曜0時を起点に、各時間帯の平均リターンを一週間ぶん積み上げたものです。まずは、これから戦略を組み立てるための「2024年まで」のデータで見てみます。

線が右肩上がりの区間は「その時間帯は買いで利益が乗りやすい」、右肩下がりの区間は「下げやすい」ことを意味します。この見方の利点は、エントリーとイグジットの組み合わせが一目で分かることです。線が谷になっている時間帯で買い、山になっている時間帯で決済すれば、その区間の上昇を取れる、という具合に、戦略のアイデアを視覚的に立てられます。
たとえばこのグラフを見ると、月曜から水曜にかけては線が上昇傾向にあり買い戦略を組み立てられそうだ、木曜の一部の下落している区間では売り(ショート)戦略を組み立てられそうだ、といったことが、一目で読み取れます。
ヒートマップと折れ線から、戦略を組み立てる
ここで、一つ大切な設計方針をお伝えします。たった1時間の値動きだけを狙う戦略は、作りません。 理由は、1時間の値幅はごくわずかで、スプレッドや手数料を引くと利益が残らない(手数料負けする)からです。ヒートマップの1マスに飛びつくのではなく、上昇が続く「区間」をまとめて取りにいきます。
2024年までの折れ線グラフとヒートマップを見ると、水曜日の午前から木曜日の早朝にかけて、線が綺麗に上昇している区間(赤枠)があります。そこで、次のシンプルなルールを立てます。

【季節性戦略】日本時間・水曜10時に買い、木曜4時に決済する(保有約18時間)
インジケーターも、複雑な条件もありません。決まった曜日・時間に買い、決まった曜日・時間に売る。ただそれだけです。
バックテスト:2024年までの成績
まず、この戦略を2011〜2024年(=戦略を組み立てる材料にした期間)でバックテストします。
※ 先ほどのヒートマップと折れ線グラフは、2011年9月からのヒストリカルデータで集計しています。一方、このバックテストは、使用した検証ツール(StrategyQuantX)で取得できるデータが2012年1月20日からだったため、そこを開始点としています。両者の期間には数ヶ月のずれがありますが、いずれも十数年におよぶ集計であり、傾向に影響はありません。

主な結果は次のとおりです。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| プロフィットファクター | 1.37 |
| リターン/ドローダウンレシオ | 4.75 |
| 勝率 | 56.06% |
| 取引数 | 438 |
「時間だけ」で売買するシンプルな戦略が、13年間でプロフィットファクター1.37。派手な数字ではありません。勝率も56%と、少し勝ち越す程度です。しかし、これこそが「統計的な偏りに淡々と乗る」ということです。一発の大勝ちではなく、わずかなエッジを、何百回も繰り返して積み上げる。リターン/ドローダウンレシオ4.75という数字が、その効率の良さを示しています。
ただし、ここで満足してはいけません。この成績は、あくまで「戦略を作るのに使った期間」の結果です。過去にうまくいくのは、ある意味当たり前。本当に問うべきは、この偏りが「その後の未知の期間でも通用するのか」です。
本当に通用するのか:アウトオブサンプル検証
そこで、戦略の組み立てに一切使っていない2025年〜2026年7月末(記事執筆時点)のデータで、同じ戦略をそのまま検証します。これが、当サイトの堅牢性テストの基本、アウトオブサンプルテストです。

結果を並べてみます。
| 指標 | 2012〜2024年(開発期間) | 2025〜2026年(未知の期間) |
|---|---|---|
| プロフィットファクター | 1.37 | 1.48 |
| 勝率 | 56.06% | 56.10% |
| リターン/ドローダウンレシオ | 4.75 | 2.50 |
| 取引数 | 438 | 82 |
注目してください。未知の期間のプロフィットファクターは1.48で、開発期間の1.37と近い、むしろわずかに上回っています。勝率にいたっては、56.06%と56.10%で、かなり近似しています。
アウトオブサンプルテストで最も大切なのは、「未知の期間でものすごく儲かること」ではなく、「開発期間と近しい結果が得られること」です(詳しくはアウトオブサンプルテストの記事参照)。その観点で、この結果は理想的です。2024年までに見つけた「水曜から木曜にかけての偏り」は、その後の未知の期間でも、同じように機能したのです。
これは、季節性が単なる過去のまぐれではなく、再現性のあるエッジであり得ることを示しています。
現実的なコストを反映して検証する
ここまでの検証は、統計的な偏りそのものを見るため、手数料をゼロにしていました。しかし実運用では、スプレッドなどのコストがかかります。そこで、現実的なコストを反映して、同じ戦略をもう一度検証してみます。

この戦略はスワップも発生せず、売買も1往復だけなので、コストの影響は限定的です。そのため、コストを反映しても優位性は保たれています。
なお、より厳しく見た場合もお伝えしておきます。当サイトの配布戦略の追跡では、銘柄を問わず一律で手数料0.05%という、やや厚めの条件をかけています。この季節性戦略を同じ0.05%で検証しても、プロフィットファクターは1.17と、利益は残りました。現実的なコストでも、厳しめのコストでも、エッジは失われないということです。
注意点と、正しい向き合い方
とはいえ、季節性を過信してはいけません。正直な注意点をお伝えします。
第一に、単一の時間帯(1マス)は不安定です。2024年までに「最も上がりやすかった」上位の1時間だけを取り出して2025年以降を調べると、そのまま通用したのは一部だけでした。1マスの数字には偶然のブレが大きい。だからこそ、上昇が続く区間をまとめて取り、複数の時間帯を束ねることが重要です。
第二に、コストの見積もりは銘柄と戦略しだいで変わります。今回のS&P500のように流動性が高くスワップの出ない戦略もあれば、スプレッドの広いマイナーな銘柄や、保有が長くスワップを考慮すべき戦略もあります。銘柄と保有期間に応じて、適切なコストを含めて検証する必要があります。
第三に、季節性は永遠ではありません。市場の構造が変われば、過去の偏りが続くとは限らない。だから、定期的にデータを更新し、堅牢性テストで検証し続ける必要があります。
さらに強くする:フィルターを組み合わせる
今回は「時間だけ」で売買する、最もシンプルな形を紹介しました。しかし実際には、ここにフィルター(条件)を加えることで、戦略をさらに強くできます。
たとえば、次のような条件を組み合わせることが考えられます。
- 移動平均線よりも価格が上にあるとき(=上昇トレンド中)だけ、買う
- ボラティリティが上昇傾向のときだけ、仕掛ける
- RSIが下限レベルより下にあるとき(=売られ過ぎ)だけ、買う
こうしたフィルターを一つずつ検証し、堅牢性テストにかけていくことで、「時間帯の偏り」に「相場状況の条件」を掛け合わせた、あなただけの戦略を作り上げられます。
そして重要なのは、こうして作った季節性ベースの戦略は、順張り戦略とも逆張り戦略とも、まったく別の角度から生まれるということです。だからこそ、極めて低相関なポートフォリオを組むための、強力なピースになります。
まとめ
季節性とは、もともと先物の世界で使われてきた「周期的な偏り」の考え方です。それを曜日・時間帯という短い単位に落とし込むと、インジケーターを一切使わない、まったく別の発想の戦略が生まれます。
今回、2024年までのデータから「水曜10時買い→木曜4時決済」という戦略を組み立て、それが2025年以降の未知の期間でも、ほぼ同じ成績で機能することを確認しました。時間という偏りが、再現性のあるエッジになり得ることの、一つの実証です。
大切なのは、1マスに飛びつかず区間で束ねること、コストを考慮すること、そして必ず堅牢性テストで検証すること。さらにフィルターを組み合わせれば、順張り・逆張りとは異なる角度の戦略として、ポートフォリオの安定に大きく貢献します。
理由を後付けするのではなく、事実を淡々と戦略に変え、検証を重ねる。それが、季節性を味方につける正しい方法です。
