トレーディングにおいて「聖杯」を求める声は絶えません。しかし、単一のロジックで市場を制することは現実的ではありません。本当に安定した成果を生み出すのは、複数の堅牢な戦略を組み合わせ、リスクを分散しながら運用する「ポートフォリオ」という構造です。
今回は、これまで構築してきた「構造的エッジ × 再現性のある戦略」をベースに、複数アセットへの展開とポートフォリオ構築によって、どのような成果が得られるのかを検証します。本シリーズの集大成となる回です。
これまでの結論(S&P500の場合)
- マーケットエッジ:買いに優位性がある(→ Step.1 マーケットエッジを理解する)
- 戦略的エッジ:順張りより逆張りが機能する(→ Step.2 ストラクチャーエッジの検証)
- ロジック:RSI(2)の逆張り、買い30以下/売り70以上(→ Step.3 RSIを用いた構造的逆張り戦略)
- 最適化とリスク管理:買い40/売り90、10本経過で強制決済(→ Step.4 安定領域を探す最適化)
- フィルター:ADX(5)レベル30以上(→ Step.5 ADXフィルターで勝負所を厳選する)
本記事では、この完成した戦略を「複数のアセットへ展開」し、組み合わせて1つのポートフォリオにまとめます。
公平な比較のためのシミュレーション条件
今回の記事では、複数アセットに対する戦略の展開とポートフォリオ構築について検証を行います。その前提として、すべてのシミュレーションで以下の条件を統一しています。
- 手数料:0.05%に固定
- スプレッド:0
- 初期資金:10,000ドル
- 取引数量:1
この条件により、戦略の構造やアセットの違いによるパフォーマンス差を、純粋に比較できる環境を整えました。
※ S&P500の戦略結果は前回(Step.5)の記事と数値が異なる場合がありますが、これは手数料やスプレッドの条件を統一したことによるものであり、戦略構造そのものは同一です。
構造的な戦略は異なるアセットでも通用する
まずは、前回までの記事「【Step.5】戦略を仕上げるフィルター:ADXで「勝負所」を厳選する」で完成させたS&P500向けの逆張り戦略を、パラメータを一切変えずに「NIKKEI225」「DAX30」「GOLD」の3銘柄へそのまま適用してみました。最初に、適用するS&P500戦略をおさらいします。

【戦略の確認】
- 対象銘柄:S&P500
- パラメータ:RSI(2)買いレベル40、売りレベル90
- 決済条件:ローソク足10本経過で強制決済
- フィルター:ADX(5)、レベル30以上
パラメータもロジックもフィルターも完全に同一のまま、3銘柄でシミュレーションを行いました。



結果は驚くほど一貫しており、どのアセットでも右肩上がりの資産曲線が確認できました。これは、これらのアセットがいずれも「買い方向にマーケットエッジがある」こと、そして「逆張りのエッジが機能する市場構造を持っている」ことを示しています。
つまり、構造的に優れた戦略は、アセットを問わず再現性を持って機能するということが証明できたと言えます。
各アセットに最適化した戦略
次に、S&P500で採用した戦略構築手順(Step.1〜5)をそのまま使い、NIKKEI225・DAX30・GOLDそれぞれに最適化し、安定領域のパラメータを適用した戦略を構築しました。
使用したデータはすべて2015年〜2023年の期間で、2024年以降の価格は一切含めていません。つまり、未来の価格に対しても堅牢性を検証できる構造です。
以下が各アセットにおける戦略の構成です。根幹(逆張り買い・10本強制決済・ADXフィルター)は完全に同一で、パラメータだけがアセットの特性に応じて変わっている点に注目してください。
NIKKEI225
戦略パラメータを確認します。

【N225_戦略パラメータ詳細】
- ロジック:逆張り買い戦略
- パラメータ:RSI(2)買いレベル30、売りレベル85
- 決済条件:ローソク足10本経過で強制決済
- フィルター:ADX(10)、レベル15以上
上記のパラメータにおけるシミュレーション結果です。

DAX30
戦略パラメータを確認します。

【DAX30_戦略パラメータ詳細】
- ロジック:逆張り買い戦略
- パラメータ:RSI(2)買いレベル40、売りレベル90
- 決済条件:ローソク足10本経過で強制決済
- フィルター:ADX(15)、レベル20以上
上記のパラメータにおけるシミュレーション結果です。

GOLD
戦略パラメータを確認します。

【GOLD_戦略パラメータ詳細】
- ロジック:逆張り買い戦略
- パラメータ:RSI(2)買いレベル35、売りレベル95
- 決済条件:ローソク足10本経過で強制決済
- フィルター:ADX(40)、レベル10以上
上記のパラメータにおけるシミュレーション結果です。

いずれも、戦略の根幹は完全に同一でありながら、アセットごとの特性に応じてパラメータを調整することで、それぞれが独立した資産曲線を描く戦略に仕上がっています。この「独立性」が、次のポートフォリオ化で効いてきます。
ポートフォリオによる分散で堅牢性を高める
元々のS&P500戦略に、この3つの戦略(NIKKEI225・DAX30・GOLD)を組み合わせてポートフォリオを構築すると、運用結果にどのような変化が現れるのかを確認します。

- 取引数:194
- PF:1.62
- Sharpe Ratio:0.73
- Return Drawdown Ratio:4.11


- 取引数:732
- PF:1.62
- Sharpe Ratio:1.15
- Return Drawdown Ratio:5.13
比較すると、プロフィットファクター(利益率)はどちらも1.62と全く同じ数値を示しているにもかかわらず、リスクを考慮した指標であるシャープレシオとリターン/ドローダウンレシオの両方が向上していることが分かります。
| 戦略の比較 | S&P500単一戦略 | ポートフォリオ戦略 |
|---|---|---|
| 取引数 | 194 | 732 |
| プロフィットファクター | 1.62 | 1.62 |
| シャープレシオ | 0.73 | 1.15 |
| リターンドローダウンレシオ | 4.11 | 5.13 |
シャープレシオ:利益を損益のブレ幅(標準偏差)で割ったもの。数値が高いほど、損益の変動が小さいのにしっかり利益が出ていることを意味します。
リターン/ドローダウンレシオ:最終リターンを最大ドローダウンで割ったもの。数値が高いほど、損失に対して得られたリターンが大きい=効率的な運用ができていることを示します。
どちらも、単なる利益額ではなく「リスクを考慮した効率性」を測る指標であり、ポートフォリオの質を評価するうえで非常に重要です。プロフィットファクターが同じでもこれらの指標が向上しているということは、より安定した運用ができていることを意味します。
年ごとの損益状況も比較してみます。
【図】S&P500単体の年別損益 と 4戦略ポートフォリオの年別損益の比較。


特筆すべきは、S&P500単体の戦略ではマイナス収支だった2018年と2022年において、ポートフォリオでは損失が軽減され、2022年はプラス収支に転じたという点です。
これは、異なるアセットが異なるタイミングで利益や損失を出すことで、全体の資産曲線が滑らかになる「分散効果」が働いた結果です。
なぜ、このようなことが実現できるのか。それは、各戦略の損益が「低相関」だからです。
相関とは?分散の本質を支える概念
相関とは、2つのデータの動きがどれだけ似ているかを示す指標です。1に近いほど同じ動きをし、0に近いほど無関係、−1に近いほど逆の動きをします。

今回のポートフォリオにおける損益の相関係数を確認すると、最も高いものでもS&P500とDAXの0.32。N225とGOLDに至っては0.01と、ほぼ無相関という結果でした。
これは、それぞれの戦略が独立した損益推移(連動していない動き)を持っていたことを意味します。ほとんど同じ構造の戦略を適用しているにもかかわらずこのような結果が生まれるのは、価格の動きの違いやマーケットの特性がそれぞれ異なるためです。
つまり、ポートフォリオは単純に複数の戦略を組み合わせればよいというわけではなく、低相関となる戦略を組み合わせることが不可欠なのです。
結論:ポートフォリオは構造的戦略の最終形
今回の検証では、同じ構築手法を用いて異なるアセットに戦略を展開し、ポートフォリオとして組み上げることで、単一戦略では得られなかった安定性と堅牢性を実現することができました。
この考え方は、1952年にハリー・マーコウィッツが提唱し、1990年にノーベル経済学賞の対象となった「現代ポートフォリオ理論(Modern Portfolio Theory, MPT)」に通じるものがあります。さらに、世界的なヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の創設者であるレイ・ダリオ氏も、ポートフォリオの分散効果と構造的優位性を重視した運用哲学を提唱しており、有名な “All Weather Portfolio” などの戦略はその代表例です。
私たちが目指すべきは、こうした理論と実践を融合させた、誰でも再現可能なポートフォリオ運用です。
ここまでのStep.1〜6を通じて、「マーケットエッジ → 戦略的エッジ → シンプルなロジック → 最適化 → フィルター → ポートフォリオ」という、一貫した戦略構築の「型」が完成しました。この型は、S&P500以外のあらゆる銘柄に応用できる、誰でも活用できるフレームワークです。
なお、当サイトではこの型を使って構築した戦略を個別に紹介しています。興味のある方は以下もご覧ください。
→ 戦略一覧はこちら
そして、構築した戦略が本当に将来も通用するのかを確かめる「堅牢性テスト」については、Robustness Lab のシリーズで詳しく解説しています。
最後に。
あなたも、パソコンに張り付いて一喜一憂するエキサイトなトレーディングではなく、構造的優位性に基づいた、プロとしてのポートフォリオ運用を始めてみませんか。それは、感情ではなく「構造」で勝つための第一歩です。
