これまでの記事では、マーケットエッジ(買い vs 売り)と戦略的エッジ(順張り vs 逆張り)という、トレーディングにおける「構造的な優位性」について検証してきました。
それらのエッジは、単なる知識ではなく、戦略構築の土台となる基礎です。
過去の戦略構築の記事をまだ読んでいない方は以下の記事を参考にしてください。
→ マーケットエッジとは何か?──戦略構築の第一歩
→ 戦略的エッジとは?──順張りと逆張りの相性を検証する
今回の記事では、その基礎をベースにしたシンプルな戦略ロジックを構築し、パフォーマンスを検証していきます。
【S&P500における戦略的エッジの確認】
今回も、毎回取り上げているS&P500を題材にします。
これまでの検証から、S&P500には以下のような構造的な傾向があることがわかっています。
・売りよりも買いに優位性がある(マーケットエッジ)
・順張りよりも逆張りに優位性がある(戦略的エッジ)
つまり、逆張りの買い戦略こそが、S&P500に最も適したロジックだと考えられます。
戦略のアイデア出しとシミュレーション設定
逆張り戦略と聞いて、まず思い浮かぶのはRSI、ボリンジャーバンド、ストキャスティクスなどのインジケーターではないでしょうか?
もちろん、インジケーターを使わずに構築することも可能ですし、逆張りのアイデアは無限にあります。
ですが今回は、わかりやすさと汎用性を重視し、最も有名なRSI(Relative Strength Index)をベースに戦略を構築してみます。
RSIの基本と今回の設定
RSIは日本語で相対的指数と訳され、オシレーター系のインジケーターとしてチャート下部に表示されます。

一定期間におけるマーケットの過熱感(買われすぎ・売られすぎ)を0~100で数値化します。
- RSIが30以下 → 売られすぎ → 買いシグナル
- RSIが70以上 → 買われすぎ → 売りシグナル
今回はこの基本的なルールをそのまま使います。
「そんな単純で大丈夫?」と思われるかもしれませんが、マーケットエッジと戦略的エッジに沿ったロジックであるため、むしろ“シンプルだからこそ機能する”可能性が高いのです。その他、RSIは期間を指定する必要があります。デフォルトでは14と設定されていることが多いですが、日足だとシグナルが少ないため、今回は「2」とします。

【逆張りロジック概要】
- 買いエントリー:RSI30以下
- 売り決済:RSI70以上
- RSI期間:(2)
- シフト:[1]
- シフトは、何本前のローソク足の値を使うかを指定するパラメータです。今回は1本前の足のRSI値を使うため、シフトは1に設定します。
このように、誰でも理解できるほどシンプルなロジックでありながら、構造的な優位性に沿った設計になっています。
検証環境とシミュレーション条件
検証には、私が愛用している「StrategyQuantX」というツールを使用します。
このツールは、プログラミング不要でロジックのバックテスト(過去検証)やAIによる戦略構築が可能で、強力な戦略設計を実現する強力なパートナーです。
今回はS&P500の日足データを使い、2015年1月1日〜2024年12月31日までの10年間を対象にシミュレーションを行います。スプレッドは2ドルの保守的な設定にします。

【シミュレーション設定】
- 銘柄:S&P500
- タイムフレーム:日足
- 開始日:2015/1/1
- 終了日:2024/12/31
- スプレッド:2ドル
- スリッページ:なし
初期資金は10,000ドルに設定、注文サイズは「1」の固定とします。

【シミュレーション設定】
- 初期資金:10,000ドル
- 注文数量(固定):1
検証結果と比較
逆張り、順張りのシミュレーション結果を順番に確認していきます。まずは、先ほど作成した逆張りロジックの結果からみていきましょう。
※音はありません。
RSI逆張り戦略の結果
RSIだけを使い、ほとんどパラメーターを変更していないシンプルな戦略でも、資産曲線は右肩上がりを描きました。

プロフィットファクターは(プロフィットファクター(PF)は「利益 ÷ 損失」で計算され、1以上ならプラス収支。高いほど優秀な戦略です。)1.52と高く、勝率は70%を超えています。利用する証券会社によって異なるスプレッドや手数料を考慮しても、十分にプラス収支となる水準です。
年別の結果を見ると、2018年と2022年はマイナスでしたが、それ以外はすべてプラス収支です。

この結果は、「複雑なロジック=優秀な戦略」という思い込みを覆すものです。
順張りロジックとの比較
次に、エントリーと決済のロジックを逆転させ、順張り戦略として検証します。価格の上昇時に買い、下落時に売る戦略です。その他の設定は同じままです。

【逆張りロジック概要】
- 買いエントリー:RSI70以上
- 売り決済:RSI30以下
- RSI期間:(2)
- シフト:[1]
- シフトは、何本前のローソク足の値を使うかを指定するパラメータです。今回は1本前の足のRSI値を使うため、シフトは1に設定します。
結果はプラスではあるものの、資産曲線の安定性は逆張りに劣ることがわかります。

このことからも、マーケットエッジだけでなく、戦略的エッジ(順張り or 逆張りの優位性)の理解が重要であることが再確認できます。
ローソク足の期間によるパフォーマンスの違い
今回の検証は日足ベースで行いましたが、トレード回数が少ないというデメリットがあります。
10年間で236回の取引=月平均2回程度です。
しかし、それでも日足でのトレードを強く推奨します。
なぜ日足なのか?
トレーディングには、時間軸によってさまざまなトレードオフが存在します。
ローソク足の期間が短くなるほど、トレードの頻度は増えますが、ノイズも多くなり、判断が難しくなります。
一方、期間が長くなるほど、トレードはシンプルになり、構造的なエッジが活きやすくなります。
以下の表は、短期足と長期足の違いを比較したものです。
| 項目 | ←短期足になるほど | 長期足になるほど→ |
|---|---|---|
| トレード回数 | 多い(頻繁にシグナルが出る) | 少ない(月数回程度) |
| 勝率傾向 | 手法次第(エッジの影響が小さい) | 手法次第(エッジの影響が大きい) |
| 平均利益(値幅) | 小さい(細かい値幅を狙う) | 大きい(まとまった値幅を狙える) |
| ノイズの多さ | 多い(ダマシが多く判断が難しい) | 少ない(明確な動きが多い) |
| 市場滞在時間 | 少ない(数分〜数時間) | 長い(数日〜1週間程度) |
| 手数料、スリッページの影響 | 大きい(回数が多く積み重なる) | 小さい(回数が少なく抑えられる) |
| 再現性・安定性 | 低め(裁量や瞬発力が必要) | 高め(ルール化しやすく検証しやすい) |
異なる時間足で検証
ローソク足の期間によって、同じ戦略でもパフォーマンスがどう変わるのか──
この疑問に答えるため、今回はRSIを使った逆張り戦略を「日足」「4時間足」「1時間足」でバックテストしました。
ただし、RSIの期間「2」は短期足ではシグナルが多すぎて機能しづらいため、時間足に応じてRSI期間のみ調整しています。
エントリー条件(30以下)と決済条件(70以上)はすべて共通です。
【実施したテスト内容】
- 日足:期間 2, 3, 4
- 4時間足:期間 2, 6, 12
- 1時間足:期間 2, 14, 20









この検証から、いくつかの重要な傾向が明らかになりました。
- 日足は、期間を多少変更しても安定して良好な結果が出る
- 短期足では、良い結果を得るためにRSI期間を伸ばす必要があり、結果的に取引回数が減る
- 取引回数を同程度に揃えても、日足の方が収益性が高い
つまり、短期足で良い結果を出そうとすると、結局“長期足のような設定”に近づけるしかないということです。
これは、先ほどの比較表で示した「長期足の方が構造的に有利」という内容を、実際の検証で裏付ける結果となりました。
ただし、リスク管理や検証という観点では注意点もあります。
市場滞在時間が長いほどポジションリスクが高まります。また、シミュレーションでは、トレード回数が多いほど統計的な精度が高まりやすく、日足のように取引頻度が少ないと、結果のばらつきや一時的な偏りが出やすいというデメリットもあります。
それらのデメリットを考慮しても、ローソク足の期間が長くなるほど、トレードにおける構造的なリスクは減少し、再現性と安定性が高まることは、この検証をみれば明らかです。
トレーディングのプロでなくても、誰でも再現できる戦略運用を目指すなら、日足、または短くとも4時間足が最も現実的な選択肢だと考えられます。
結論:構造的な戦略設計が再現性を生む
今回の記事では、マーケットエッジと戦略的エッジの理解をもとに、RSIを使ったシンプルな逆張り戦略を構築し、様々な検証を行いました。
このように、構造的な優位性に沿って戦略を設計すれば、どれだけシンプルなロジックでも収益性と再現性の高い戦略が構築できることがわかります。
そして、ローソク足の期間という見落とされがちな要素が、戦略のパフォーマンスに大きな影響を与えることも確認できました。
次回は、インジケーターのパラメータを最適化する方法と、その適切な手順について詳しく解説します。
「良い結果を探す」のではなく、効果的に最適化を行う考え方と実践方法をお届けします。
